はじめに
デジタル一眼レフで撮影を楽しんでいる皆さん。これからディープな世界にご案内いたします。
デジタル一眼レフでMFレンズを使用する場合には注意が必要で、使用できないレンズとカメラボディの組み合わせで無理矢理使用すると、レンズの後玉を傷つけたり、カメラボディを傷つけたりする可能性があります。最悪、装着した状態からレンズをはずせなくなってしまう場合もあります。
どのカメラボディでどのレンズが使用可能かは広く情報を収集して判断し、自己責任のもとでご使用ください。 3. M42マウントのレンズで遊ぶ
MFレンズ遊びの入門としては、M42マウントのレンズから入るのが良いと思います。これは、使用可能なカメラボディが多く、マウントアダプタが安価でかつレンズが比較的安価に手に入ることからです。 M42マウントは、ペンタックス・スクリューマウント、プラクチカ(Praktica)・マウントとも呼ばれ、かつては複数のカメラボディのメーカーで採用されていました。そのため、M42マウントのレンズには多くのメーカー製のものがあり、数も豊富なために比較的安価に入手可能です。 ニコン機では無限遠がだせませんが、ほとんどのデジタル一眼レフカメラで使用可能であることも魅力の1つで、M42マウントのレンズを各種マウントのボディに装着した例は最初にお見せしましたね。 Carl Zeiss Jena Flektogon 4/20 + EOS 20D このレンズは、オールドレンズ・ファンであればご存知かと思いますが、Carl Zeiss Jena(カールツァイスイエナ)製のFlektogon(フレクトゴン)というレンズです。20mm 開放F値1:4.0の当時としては超広角レンズです。 Carl ZeissのレンズにはこのFlektogonのように名前がついています。 M42マウントのレンズで、Praktica(プラクチカ)製の一眼レフカメラ用に販売されたものです。同じ形状のレンズでマウントがExakta(エグザクタ)マウント用のものもあります。このシリーズはゼブラ模様が特徴です。 M42レンズには、一眼レフ初期の頃のオールドレンズが多数存在しますので、カメラとレンズの歴史を振り返りながら遊んでください。 M42マウントのレンズをデジタル一眼レフに装着するためには必ずマウントアダプタが必要となります。 マウントアダプタには、カメラボディ側に装着するタイプと、レンズ側に装着するタイプがあります。 ここでは、ペンタックスKマウント用のアダプタと、キヤノンEOSマウント用のアダプタを例にとって説明いたします。 マウントアダプタを使ってM42マウントのレンズを装着する
M42-PKアダプタ これらはペンタックスKマウント用のアダプタです。KマウントとM42マウントはフランジバックが同一で、このアダプタはKマウントの内側に装着します。カメラボディ側に取り付けるタイプのアダプタです。 左側はペンタック純正の"マウントアダプターK"で、絞りピンを押し込まないタイプのアダプタです。 右側はRAYQUAL製のM42-PKアダプタで、絞りピンを押し込むタイプのアダプタです。 絞りピンの取り扱いについては後ほど解説いたします。 K100DにマウントアダプターKを装着 K100Dにペンタックス純正のマウントアダプターKを装着した例です。 マウントアダプタの取り付けスペースがあまりないため、取り付けと取り外しは少し細かな作業となります。 M42マウントのレンズと、ペンタックスKマウントのレンズを交換しながら使う場合、カメラボディ側のマウントアダプタの着けはずしが必要なのが難点です。 ペンタックス製のM42レンズを使用する場合は、全てがメーカー純正品で揃えられますので、レンズとボディの干渉などを気にせずに安心して使用することができます。 M42-EOSアダプタ これらはキヤノンEOSマウント用のアダプタです。 左の写真の右下のアダプタは近代インターナショナル製で、絞りピンを押し込むタイプです。残りの2つはノーブランド品で、絞りを押し込まないタイプです。 キヤノンEOSマウント用のアダプタはボディ側に取り付けることも、レンズ側に取り付けることも可能です。 レンズ交換する場合に、マウントアダプタをボディ側に残すこともはずすことも選択できるので、使いやすいマウントアダプタです。 EOS 40DにM42-EOSアダプタを装着 MC PELENG 3.5/8 M42-EOSアダプタを装着 M42マウントのレンズを使用する際の注意点
本当にM42マウントのレンズであるかどうかの確認
M42とは、言葉のとおりφ 42.0mmのねじですが、同じ口径φ 42.0mmでT2マウントという主に望遠鏡を使用するためのマウントが存在します。 T2マウントはそもそもそのままカメラに取り付けるためのマウントではなく、各カメラメーカーのマウントに変換するためのアダプタを取り付けるための中継マウントです。T2→M42変換のアダプタもあります。下記はT2マウントと、それをアダプタでM42マウントに変換したサンプルです。ねじピッチの違いをわかりやすくするために大きめに表示してあります。 T2マウント T2-M42アダプタでM42マウントに変換 自動絞り機構を解除する
Carl Zeiss Jena Flektogon 4/20 Flektogon 4/20の絞り制御ピン M42マウントのレンズは開放測光や自動絞りに対応しているものがあります。カメラ側でレンズの絞りを制御するためのピンがレンズのマウント部に付いているレンズがそうで、このタイプのレンズを使用する際には自動絞りの機構を効かなくする必要があります。 左はFlektogon 4/20の例です、このレンズは自動絞り機構をOFFにするスイッチは搭載していないタイプです。 自動絞り機構が有効でかつ、絞り制御ピンが図のように押し込まれていない場合、レンズの絞りは絞りリングの設定に関係なく常に開放状態となります。 M42の自動絞り機構の制御 自動絞りの機構を効かなくする方法は2通りあります。 1つは右の例のようにレンズそのものに自動絞りをOFFにする機構が付いている場合です。スイッチで”AUTO”と”MANUAL”の切り替えができますので、これを”MANUAL”側に設定してください。 ペンタックス純正レンズの場合、”AUTO”と”MANUAL”の切り替えにはちょっとしたコツが必要な場合があります。 ※ 右の写真はペンタックス純正のSMC TAKUMAR 50/1.4です。オレンジの"MAN."と白の"AUTO"の切り替えスイッチがついて、スイッチを"MAN."が見える状態にスライドすると、マニュアル・モードとなり実絞り状態となります(左側)。 もう1つの方法はどのようなタイプのレンズにも対応可能な方法で、自動絞りのためのピンをマウントアダプタで押し込んでしまう方法です。この方法を使用するためには、このタイプのマウントアダプタを使用しなければなりません。 自動絞りの機構を効かなくする改造をレンズに施すという方法もあります。レンズの改造はリスクを伴いますのでここではお勧めいたしませんが、改造されたレンズも市場に出回っています。例えば、古いタイプのCarl Zeiss Jena製のM42レンズには切り替えスイッチがないために、このような改造を施されるケースが多いようです。 マウントアダプタには2つの種類がある
すでに上の項目で説明しましたとおり、自動絞りのピンを押し込むタイプ(ここではタイプ-Aと呼びます)とそうでないタイプ(ここではタイプ-Bと呼びます)の2つのマウントアダプタが存在します。 この2つのタイプ、タイプ-Aの方が万能であるかのように思えますが、実はそうでもなく、タイプ-Aのマウントアダプタだとレンズの後玉が干渉して使用できないレンズが存在します。
※ Carl Zeiss Biotar 2/58などはタイプ-Aのアダプタは使用できません。 ペンタックス製のM42レンズを使用する場合や、ロシア製の自動絞りの機能がついていないM42レンズを使用する場合などはタイプ-Bでも問題なく使用できます。 ピンが押し込まれるタイプA ピンが押し込まれないタイプB プリセット機構付きレンズの使い方
これはM42マウントのレンズに限ったことではないですが、自動絞りに対応していないレンズで、代わりに絞りのプリセット機構(ロック機構)が付いたレンズを使用する場合の使用方法について説明いたします。
プリセット機構(ロック機構)とは、最初に絞りリングで絞り値をプリセットして、次にピント合わせのために一時的に開放に戻し、ピントが合ったらプリセットされている絞り値に戻して撮影するという手順で使用します。 ロシア製のレンズでは、現在発売されている新品でもこのタイプのレンズが多く存在します。下記のPELENG 3,5/8(写真-左)もJUPITER-9(写真-中)もいずれもロシア製のプリセット機構付きのレンズです。写真-右はRUBICA 3.5/35 日本製の謎?のレンズです。 MC PELENG 3.5/8 FISHEYE JUPITER-9 2/85 RUBICA 3.5/35
※ JUPITER-9はSonnar 85/2.0のコピー品です。マルチコートが施されたMC JUPITER-9はまだ現行製品として販売されているようです。PELENG 3,5/8は現行製品で、M42以外にNikon Fマウントなども選択できます。
プリセットレンズの使い方 このタイプのレンズは、絞り値の設定に2つのリングを操作する必要があります。 1つは通常の絞り値設定リングで、開放から最小絞り値まで段階的にカチカチと絞りを設定するのに使用します。撮影に使用する絞り値をはこのリングで設定します。(絞り値のプリセット) もう1つは設定された絞りのプリセット値と開放を切り替えるための絞り込みリングです。 左の例では、絞り値はいずれもF11に設定されています。絞り込みリングを"C(Close)"(写真-左)にすると絞り込まれますが、"O(Open)"(写真-右)にすると絞り開放となります。 絞込みリングの表記は、PELENGの場合は"UNLOCK"と"LOCK"、JUPITER-9の場合は赤点マークと様々なようです。 「絞ったつもりが絞られてない」なんてことがないようにご注意ください。 メーカー独自に拡張されたM42
M42マウントを採用しているカメラ・メーカーが数社あったこともあって、M42マウントはメーカー独自の拡張が行われました。そのため、それらの拡張に対応したレンズは使用が制限される場合があります。
FUJICAの開放測光用定位置ロック機構
FUJINON-Z 1:3.5-4.5 f=43-75mm FUJICAのFUJINONレンズはM42マウントですが、開放測光に対応させる独自の拡張が行われました。そのため、そのままでは使用することができないレンズがあります。 FUJICAの開放測光対応レンズには、定位置でロックさせるための凸がレンズ側のマウント外周に設けられています。(写真-右上) そのため、M42マウントアダプタとこの凸が干渉して、レンズを最後までねじ込む事ができません。(写真-右中、アダプタは写真-下左を使用) この問題を回避するために、レンズ側を加工して凸を削ってしまうか、専用のマウントアダプタを使用するかのいずれかになります。 写真-右下の例は、加工されたマウントアダプタ(写真-下中)を使用しています。 マウントアダプタに加工を施すなんてことは普通できませんが、FUJINONレンズ対応のマウントアダプタは、M42-EOS用のものが宮本製作所のRAYQUALシリーズに用意されています(写真-下右)。レンズ側の凸を避ける溝が彫られています。 ちなみに、写真-下中の加工はRAYQUALのマウントアダプタを製作元の宮本製作所がFUJINON対応用に追加加工してくださったもので、現在は写真-下右の形状でM42-EOSアダプタの標準仕様として最初から加工が施されるようになりました。写真-下左は比較用のノーブランドのM42-EOSアダプタです。 RAYQUAL M42-EOSアダプタ
プラクチカの電子接点
PENTACON electoric 1.8/50 プラクチカ用電子接点付きレンズ Carl Zeiss Jena製のM42レンズなどに、プラクチカ一眼レフの開放測光用の電子接点(ピン)が付いたレンズが存在します。 このタイプのレンズは、レンズにマウントアダプタをはめてからボディに装着する方式のM42-EOSアダプタやM42-4/3アダプタなどでは問題になりませんが、アダプタをカメラボディ側に取り付けてからレンズを装着するKマウントなどの場合は、レンズを回して着脱する際にこの電子接点のピンがマウント面の凸凹に干渉して装着しにくい場合があるようです。 ※ このレンズには自動絞り機構をOFFにするスイッチがついています。左の写真の右側のマウント部前面にあるスライド式スイッチがそうで、"A"は自動絞りON, "M"でOFFとなります。 M42マウントのレンズいろいろ
ここまでの説明で、いくつかのM42マウントのレンズを例に注意点を述べてきましたが、M42マウントのレンズは多くのメーカーが生産しており、いろんなタイプのレンズがあります。ここまでに紹介したレンズ以外で、特徴のあるものをここで紹介いたします。 Super-Takumar 1:1.8/55 例のポッチはありません このレンズは、先の「3.2.2 自動絞り機構を解除する」で紹介したSMC TAKUMAR 1:1.4/50 と違って、マウント部にポッチはありません。つまり、AUTO <->MANUALの切り替えはいつでも可能です。 これは、Super-Takumar。マルチコートが施される前の型の標準レンズの廉価版。このST 1.8/55は\1,000程度で入手可能なレンズですので、MFレンズ遊びの手始めにもってこいかもしれません。 酸化トリウムを含むガラスを使っている、俗にいう「放射能レンズ」の1つで、レンズが琥珀色に変色してきてます。 これもこのレンズの味の1つでしょう。 T2.8/50 aus JENA #1 T2.8/50 aus JENA #2 自動絞りのON/OFF切り替えスイッチ付きの例として、この T2.8/50 aus JENA DDR も紹介しておきます。 これ、Carl Zeiss JENA製のTessarですがCarl Zeissの刻印もTessarの刻印もありません。ドイツが東西に分断した時に、Carl Zeissも東西に分裂したために発生した商標権の問題を避けるために、このような表記のレンズが存在します。 Jenaは東ドイツの地名イエナで、この時期の西ドイツ製のレンズはZeiss Optonと記されています。 古いレンズで遊ぶ場合は、そのレンズの歴史的背景なども調べてみるとおもしろいと思います。 PENTACON auto 2.8/29 #1 PENTACON auto 2.8/29 #2 これはPENTACON auto 2.8/29です。29mmなんてちょっと変わった焦点距離のレンズですね。 このレンズには、写真右側のマウント側にプッシュ型のスイッチがあります。このスイッチを押すと絞りが絞られます。まるでカメラについている絞込みボタンのようですね。 結局このスイッチはあまり意味は無く、絞りピンを押し込むタイプ-A型のマウントアダプタを使用することになります。 このスイッチを押し込みながら使えばタイプ-B型も使えますが… AUTO REVUENON 1:1.2 f=55mm 後玉の切り欠き MFレンズ・マニアの中では有名な富岡光学製の開放F値がF1.2の標準レンズの1つです。 このレンズ、開放がF1.2なのはいいのですが、後玉がM42マウントの規格ぎりぎりで、自動絞りのピンと干渉してしまいます。 このレンズ、後玉が大きいため、タイプ-A型のマウントアダプタは使用できません。 |